辯・辨・辦、怎么办?: 極東ブログを読んで、そうそうこの漢字、ワタクシも前から気になってました、ここらで疑問を整理しないと、と思い、調べ物をいたしました。今回は漢字「弁」についてです。
新字体が定められた際、旧字体「辯、瓣、辨」はひとまとめに「弁」にされてしまいました。
関連:当用漢字表 – 青空文庫
「弁」で辞書を引くと次のような言葉が見つかります。
辯 | 弁解(辯解)、弁護(辯護)、弁証(辯証/辨証)、弁舌(辯舌) |
瓣 | 弁座(瓣座)、弁膜(瓣膜)、花弁(花瓣) |
辨/辧 | 弁済(辨済)、弁償(辨償)、弁別(辨別)、勘弁(勘辨)、弁事(辨事)、弁理(辨理)、弁える(辨える/辧える) |
話すことに関する「辯」、花弁やバルブなどに関する「瓣」、わきまえる・分けることに関する「辨(辧は辨の異体字)」が「弁」にまとめられているのが分かります。上記以外では「辮髪(弁髪)」の「辮」にも「弁」が使われています。「辡」で何かを挟み込んでいる漢字は片っ端からまとめられた感じですね。
そして、もう1つ。私が以前から気になっていた漢字が「辦」です。簡体字で書くと「办」。「办手续,办理,办事,办公室」などでおなじみの漢字です。
上掲の表にも弁事、弁理が含まれていますが、国語辞典ではこれらは辨事、辨理の略字とされています。弁理士は辨理士と書いていたそうですので、辨理はいいとして、中国語を扱っている人間からすると、辨事は辦事の方が正しいのでは?とモヤモヤします。中国語の「办公室」も「弁公室」と表記されますが、これも本当に正しいのでしょうか。いくらなんでも「弁」を便利に使いすぎじゃないでしょうか。
10 (「辨」の代用字)事を処理する。事務をさばく。「合弁・買弁」
「弁」の部首・画数・読み方・意味 – goo漢字辞典
goo辞書で閲覧できるデジタル大辞泉の「弁」には、このように記載されていますが、「辨」の代用字とあるのは「辦」の代用字、の誤りだと思います。買弁の繁体字表記は買辦ですし、合弁は合辦ですので。
ただ、これで「弁公室」の「弁」も代用字であることが分かりました。以前からこの表記を見るたびに、何かこうスッキリしないものを感じていたのですが、これでようやく自分を納得させられそうです。
なお、調布市の中央図書館に行った際、オンラインデータベースで朝日新聞の聞蔵、読売新聞のヨミダス、日経テレコンを検索したところ1、朝日新聞では1978年4月1日に「華僑弁公室主任に廖承志氏」2という記事があり、読売は1973年1月11日に「北京大使館けさ開設」という記事の中で「弁公庁」への言及があり、日経は1978年4月6日に「中国国務院に僑務弁公室」という記事がありました。各紙に「弁公」という言葉が登場した一番古い例を探したのですが、意外に最近で少し驚きました。3
日本語コーパスの少納言で「弁公」を検索すると1981年出版の「シルクロード糸綢之路第6巻(日本放送出版協会)が最も古い例でした。やはり予想していたよりずっと最近です。改革開放後、日中間の往来が盛んになるまで、中国は近くて遠い国だったのかなと想像した次第です。
まとめ
旧字体 | 新字体 | 簡体字 |
辯 | 弁 | 辩 |
瓣 | 弁 | 瓣 |
辨 | 弁 | 辨 |
辧 | 弁 | 辧 |
辮 | 弁 | 辫 |
辦 | 弁 | 办 |
※赤字は代用字
- 中央図書館に行くと無料で古い新聞記事が調べられるのでとても助かります。 [↩]
- 参考:廖承志 – 维基百科,自由的百科全书 [↩]
- 旧字体であれば1911年8月18日の読売に「邊務總辦公署」という記述があり、ほかにも記事が見つかります。 [↩]