中国や台湾にはなく、日本にしかない漢字を国字と言います。たとえば栃木県の「栃」という字がそうなのですが、この漢字を中国語でどう読むかというのはなかなかに厄介な問題です。あちらにはない漢字ですので当然読みは定まっていません。
そもそも「栃木」という地名そのものが謎に満ちていて、栃木県/とちぎの由来によれば、なぜ「栃」の字を使うようになったのかもはっきりしていないそうです。「トチ(十と千=万)」から「杤」と書くこともあったようですが、いつの間にか厂(がんだれ)までひっついて、気が付いたら「栃」になっていたと。1
そんな「栃」の字ですが、どうこう言っても読めないと困るので、とりあえず「li4」にしておきましょうか、ということでなんとなくコンセンサスができあがっています。というのも、中国語には「櫔」という漢字があり、「栃」をその簡体字として扱うことで「櫔」の発音である「li4」を流用しようということになっているのです。
この場合、「栃」が本当に「櫔」の略字として使われたことがあるのか、読みに採用する前に調査しないといけませんが、少なくとも教育部の異體字字典や康熙字典には「栃」の字はないので、私にはその妥当性を判断することはできませんでした。
「櫔」は山海経に出てくる木を表すそうですから「栃」とはずいぶん遠いような気もしますが、栃木を簡体字にする時にのよく見かける誤記「枥木」に比べれば、由緒正しいみやびな感じがしないでもありません(ちなみに「枥」はかいば桶を意味します)。ここは「li4」で手を打っておくべきなのでしょう。
2015年2月13日追記:
「東方」の2011年8月号に「栃」の中国語音はlì それともxiàng ?という素晴らしい記事がありました。
再追記:
栃について再考しました→栃は橡にして橡は栃にあらず | karak