正直なところ、この作品に期待していたわけではない。年度末の過密スケジュールを乗り越え、夜、子どもたちが寝た後に映画を鑑賞する時間くらいはとれるようになった。しばらくレンタルビデオ屋に出かけていなかったので見たい映画がずいぶんたまっていて、気がつくと私はバットマンと酔拳、ザ・レイドを手にしていた。酔拳はまあいい。先日少しだけジャッキーがらみの仕事をしたので久しぶりに見たくなったのだ。言ってみれば仕事の延長である。やむを得ない。仕方ない。
ただ、酔拳とともにバットマンとレイドを選ぶというのは、知的でダンディなナイスガイとしてのワタクシの品格を疑われかねない組み合わせである。何かこう心が温まったり、人生について考えてみたくなったりするような退屈な気の利いた作品も借りるべきではないか。このままではレジにいる女性店員に「中学生のようなご趣味ですね」とか言われそうだ。
そんな私に助け船。バットマンの横にアン・ハサウェイつながりでワン・デイが置いてあったのである。そうそう、私が探していたのはこれだよ、こういうラブストーリーが鑑賞したかったのだよ、うむうむ、という表情を作り、私はレジに向かった。
この映画は、とても切ない。いや、切ないというのが表現として適切なのか少し迷うところもあるのだが、見ているとみぞおちのあたりに誰かの手が入ってきて、何かをごっそりかき出されてしまうような体にこたえる喪失感におそわれる。ああそうか、胸をえぐるという表現は、これのもう少しきついやつを指しているのだな。鑑賞しながらそんなことをぼんやり考える。
ストーリーは、ネタバレになるのでここでは触れない。ちょっと展開に無理があるような気もするが触れない。アン・ハサウェイについても、彼女が私のタイプではない、という理由から触れない。彼女はちょっと目が大きすぎるのだ。私が感心したのはジム・スタージェスである。若さ溢れる大学生から怖い物知らずの売れっ子、疲れた中年という風に変わっていくひとりの男性をとても魅力的に演じている。アクロス・ザ・ユニバースできれいな歌声を披露していたが、演技も実に素晴らしい。この映画は彼がデクスターでなかったら成立しなかったんじゃないか。映画の最後の方でデクスターと娘のジャスミンが丘に上るところ。なんてことのないシーンだが2人の短いやりとりでなぜか涙腺が緩んだ。
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